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最高裁判所第一小法廷 昭和32年(オ)344号 判決 1960年7月27日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人石川功の上告理由第一点について。

元来時効の制度は、長期間継続した事実状態に法的価値を認め、これを正当なものとして、そのまま法律上の秩序たらしめることを期するものであつて、これにより社会生活における法的安定性を保持することを目的とする。従つて、時効制度の本来の性質からいえば、いわゆる起算日は常に暦日の上で確定していなければならないわけのものではなく、起算日を何時と定めるにしても、その時から法律の認めた一定期間を通じ同一の事実状態が継続し、いわゆる時効期間が経過した場合には、その事実に即して、遡つて当初から権利の取得又は消滅があつたものとして取扱うことは、時効の当事者間にあつては、必ずしも不合理であるとはいえないであろう。しかし、時効による権利の取得の有無を考察するにあたつては、単に当事者間のみならず、第三者に対する関係も同時に考慮しなければならぬのであつて、この関係においては、結局当該不動産についていかなる時期に何人によつて登記がなされたかが問題となるのである。そして時効が完成しても、その登記がなければ、その後に登記を経由した第三者に対しては時効による権利の取得を対抗しえない(民法一七七条)のに反し、第三者のなした登記後に時効が完成した場合においてはその第三者に対しては、登記を経由しなくとも時効取得をもつてこれに対抗しうることとなると解すべきである。しからば、結局取得時効完成の時期を定めるにあたつては、取得時効の基礎たる事実が法律に定めた時効期間以上に継続した場合においても、必らず時効の基礎たる事実の開始した時を起算点として時効完成の時期を決定すべきものであつて、取得時効を援用する者において任意にその起算点を選択し、時効完成の時期を或いは早め或いは遅らせることはできないものと解すべきである。大正一四年七月八日大審院連合部判決、および昭和一三年五月七日、同一四年七月一九日の各大審院判決等は右の趣旨に出でたもので正当というべく、当裁判所においても、今日右判例を変更すべき必要を認めない。

原判決は右の趣旨を同じうするものであつて、その判断は正当である。所論はこれと異なる見解に立つて原判決の違法をいうものであつて、採るを得ない。

同第二点について。

所論の点に関する原審の事実の認定は、挙示の証拠によりこれを是認できる。所論は原審の裁量に属する証拠の取捨、事実の認定を非難するに帰し、原判決には所論の違法は認められない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 高木常七)

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